第11話 我が一族は両班(ヤンバン)
公開日: : 日々のこと
半世紀前、母と一緒に父の実家を訪れた時のことです。
父の一番上の兄、クナボシ(長男)は、他の兄弟が皆農業をしている中で、一切農業をしていませんでした。彼の手は、まるで女性の手のように白くてきれいでした。
私が半世紀前、母と一緒に父の実家を訪れた時のことです。
父の一番上の兄は、他の兄弟が皆、農業をしているのに、クナボシ(長男)だけは一切農業をしていませんでした。
彼の手は、まるで女性の手のように白く、きれいでした。
私はその時、どうして彼は農業をせず、本を読んだり、筆で漢字を書いたりしているのか、理解ができませんでした。
今回、その疑問を留学生のRさんに話しました。
すると、その話を、畑で働いていた高齢の親戚の老人に伝えてくれました。
すると、それは両班(ヤンバン)としてのプライドのようなもので、
「一家に一人は学問をする人がいることが大切なのだ」
と教えてくれました。
つまり、爪を土で黒くしないことが、両班のプライドのようなものだったのだそうです。
そう聞いて、我が一族は昔は両班(ヤンバン)だったのだ、ということが、少しずつ腑に落ちました。
今回、初めて我が家のことが分かった気がしました。
そして、そのクナボシは、私に「羅」家の族譜について、男の子が生まれた時の名前の付け方を、熱心に話してくれました。
男の子が生まれると、五行思想に基づいた名前を付けることで、その子が何代目かがすぐ分かるのだそうです。
それを「族譜」といい、家系図のようなものです。
韓国は名前をとても大切にしてきた国ですが、植民地支配の時に「創氏改名」を強いられたため、族譜を守れなくなった家も多く、創氏改名に反対した韓国人も多かったそうです。
クナボシは、
「男兄弟の中で男の子が生まれたら、名前を付ける時は、金の次は水。その字を名前に入れるのだ」
と、私に教えてくれました。
私の兄弟で男の子がいるのは、長男に二人、四男に二人です。
しかし、その四人の名前は、五行思想には全く基づいていません。
本当なら、こうしたことは父が子どもに教えていくべきことだったのでしょう。
けれども、父は57歳で他界したため、子どもたちに伝えることができなかったのだと思います。
羅家の族譜では、男の子が生まれるたびに五行思想に沿った名前を付けるため、何代目かがすぐ分かるそうです。
私の兄弟は男五人で、全員の名前に「金」の字が入っています。
例えば、
長男(東鐘)、次男(故・京鎮)、三男(精鎮)、四男(故・広鎮)、五男(源鎮)
と、すべて「金」が付いています。
そして、その次の代は「水」を付ける必要があるそうです。
「さんずい」も、水を意味します。
しかし、私の男兄弟は、そうしたことを全く知らずに、自分の子どもの名前を付けました。
やはり、両親が日本に来たことは、朝鮮の文化を失ってきたことと同じなのだと、あらためて感じました。
- PREV
- 第10話 呼ばれた名前
- NEXT
- 第12話 韓国の旅の終わりに